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17 September 2020

東山魁夷と白い馬
~白い馬はどこから来て、どこへ行くのか~


美術趣味をご覧いただきありがとうございます。
ようやく厳しい暑さが収まり、少しずつ過ごしやすくなってきました。


 このたびは、東山魁夷の白い馬と風景画に込めた思いについて触れてみたいと思います。東山魁夷といえば、昭和47年(1972年)に描いた「緑響く」を含む連作「白い馬の見える風景」がとてもよく知られています。この白い馬はどこから来たのでしょうか。この連作を描くずっと以前、魁夷は東京美術学校(現 東京藝術大学)を卒業した後、日独交換留学生としてドイツで美術史を学びました。留学を終え帰国すると日本は第二次大戦へと向かっていました。暗い世相と自らの芸術の模索を続ける苦悶の時代に、魁夷はよく白馬とその背景に虹を描いていました。当時描いていた白馬は、苦悩と不安に包まれた世界に対する救いを願う気持ちの現れだったのではないかと、後に魁夷は振り返っています。そして戦争を境に魁夷は白馬を描かなくなりました。ときは経ち、魁夷が再びドイツを旅行で訪れた後に「白い馬の見える風景」の連作として白馬は戻って来ました。そのことについて魁夷自身も、何か運命的なものを感じたそうです。そして再び現れた白馬もまた、心の祈りを現わしていると言っています。

 魁夷は戦後の時代が急速に進むなかで、自分の風景画が時代遅れの道を歩んでいるのではないかと思うことがあったそうです。しかし後に振り返ってみて、自然に感動して風景画を描いてきたことはよかったし、これからもそれを貫いていくと言っています。その理由として、当時は高度経済成長に伴い公害の被害拡大と自然破壊が進んでおり、魁夷はこの文明の急速な発展が、自然破壊や自然と人間の間のバランスを崩していると強い危機感を抱いていました。清澄な自然と、素朴な人間性を大切にすることが、人と自然のバランスを保つことに必要であり、そのために謙虚に自然を見つめるべきだと言っています。東山魁夷の美しい風景のなかには、そのように魁夷が求めた自然と人間の共存の願いが込められているので、人々に感動を与えるのだと思います。風景画とは魁夷の祈りの形なのです。

 現在、世界的規模で急激に活発化した経済活動などにより、地球の未来が危ぶまれています。このような現状を世界規模で対応していこうとSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれていますが、魁夷は50年も前に、人と自然とのバランスの大切さを風景画という祈りの形を通して訴えてきたのです。苦悩と不安が渦巻く現代、改めて安らぎを願う白馬が必要とされています。



東山魁夷 マスターピース コレクション™「緑響く 特装版」のご案内

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仕様体裁
技 法 彩美版®プレミアム
限 定 800部
画 寸 法 329×456㎜
額 寸 法 453×580×35㎜
額 縁 特注浮き出し加工木製額(シルバーフレーム/メタリックマット梨地)
重 量 約2.8㎏
許 諾 東山魁夷著作権承継者
証 明 東山魁夷著作権承継者の承認印が額裏貼付の奥付に押印されます。
原画所蔵 長野県信濃美術館 東山魁夷館
解 説 松本猛(美術評論家、長野県信濃美術館 東山魁夷館前館長)
本体価格 300,000円(消費税は別途申し受けます)

・肩書き等は初版発行当時のものです。
・寸法、重量等は、天然材料を使用し一点ずつ手作りのため、表記と異なる場合があります。
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