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08 April 2020

国立西洋美術館 主任研究員 川瀬 佑介 氏 インタビュー・前編


ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、世界有数の名画を所蔵する美術館です。同館の大規模なコレクション展が世界で初めて日本で行われることになり、大きな注目を集めています。
共同印刷株式会社では、同館が所蔵するゴッホ《ひまわり》の彩美版®複製画を本年2月に制作し、販売を開始しました。作品解説を執筆いただいたのは、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展の監修者である国立西洋美術館の川瀬佑介主任研究員です。
今回特別に、川瀬先生より展覧会の見どころやゴッホ《ひまわり》をはじめとした所蔵作品についてお話を伺いました。


ーこのような、過去にない大規模な展覧会を日本で開催するに至った経緯を教えてください。
2019年にラグビーのワールドカップ、2020年にオリンピック・パラリンピック(※)と、2つの世界的に大きなイベントが日本で開催されることが、一つのきっかけです。また、2019年と2020年は「日英交流年」となっています。文化イベントの目玉として、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」が実現しました。
(※) オリンピック・パラリンピックは2021年に延期になりました。



ー多くの方が注目している展覧会だと思いますが、日本側の監修者として、本展を通して伝えたい思いやアピールポイントなどを教えてください。
幅広い時代や流派の上質な作品を一堂にお見せできる貴重な機会です。西洋美術の流れを、優れた実作を追いながら概観できます。今回の企画展で初めて知る作家もいるかもしれません。ご自身の関心の広がりや、気づきを得る機会になればよいな、と思っています。


ー人気のある印象派を目当てに行かれる方が多いような気がしますが、いかがでしょうか。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、19世紀以前の古典美術をメインに集めた美術館です。今回の企画展では、19世紀の印象派作品にいく前に50点ほど作品が並んでいます。ですから印象派に至る西洋美術の歴史的なコンテキストがわかりやすく提示されているはずです。それを踏まえれば、印象派の革新性や功績も改めてよく理解できるのではないでしょうか。

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ーロンドン・ナショナル・ギャラリーは、市民からの寄贈でできた美術館のため、偏りなく作品が網羅されていると伺っています。気づきを得られて、興味が広がっていくとよいですね。
一つのジャンルや時代に偏らず、西洋美術の全体を見せようというのがこの美術館の大きな特徴で、その後に設立された西洋美術を扱う美術館におけるコレクションの理想となっていきます。国立西洋美術館のコレクションも、そのポリシーや姿を反映しています。地球の裏側の美術館にまで影響を与えたコレクションのありかたを確立したのが、ロンドン・ナショナル・ギャラリーなのです。


ーいろいろな美術館の教科書的な存在ですね。イタリア・ルネサンス絵画の魅力が広く知られるようになったのは、ロンドン・ナショナル・ギャラリーがきっかけとのことですが。
ラファエロやミケランジェロなど、16世紀のビッグネームに留まらないルネサンス絵画の多様性を早くから知らしめた功績は大きいと思います。ちょうど19世紀半ばのイギリスで、それまでは発展途上の稚拙な美術だと思われていた15世紀の初期ルネサンス絵画に対する関心が高まりました。ラファエル前派(※) と呼ばれる芸術家の一群が、ラファエロ以前の美術に目を向けたのと同時期に、ナショナル・ギャラリーの初代館長の職に就いたイーストレイクが、ボッティチェッリやクリヴェッリなど、初期ルネサンス絵画を精力的に収集・展示し、その再評価の確立に寄与したのです。
(※) 19世紀に中ごろにイギリスで現れた芸術形式。ラファエロ以前の素朴で謙虚な芸術の復興を理想としました。


ーゴッホの《ひまわり》は、実業家のサミュエル・コートールドが設立した基金で購入されたと聞いています。《ひまわり》の購入の経緯やエピソードなどがあれば教えてください。
この絵はゴッホが亡くなった時に、ゴッホの手元にあった絵です。それを弟のテオが引き取り、テオ亡き後はテオの妻・ヨハンナが持っていました。その頃になるとゴッホの名声は確立されていて、世界中の美術館がゴッホの作品を欲しがります。しかし彼女は、作品の価値をきちんと世の中に伝えられる条件が整わないと作品を簡単には手放しませんでした。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーはその当時オールドマスター(※)の作品に関しては、世界トップクラスの作品がありました。購入の相談を受けた彼女が、ここであれば未来永劫に管理され、ゴッホの芸術の真価を多くの人に知ってもらえると確信したことで、ナショナル・ギャラリーに収蔵されることになったそうです。
(※)18世紀以前に活動していたヨーロッパの優れた画家・またその作品。



ー信用がそれだけある美術館というのは数少ないと思います。ここにあるべくしてあるという感じでしょうか。
この作品も、現存するほかの《ひまわり》5点も、所蔵するのは多くの方が知っている美術館です。作品の重要性を反映していると思います。


後編へ続く


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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
国立西洋美術館(東京・上野) 2020年6月18日(木)~10月18日(日)
国立国際美術館(大阪・中之島)2020年11月3日(火・祝)~1月31日(日)
※東京会場は日時指定制となります。国立西洋美術館では入場券の販売はございません。
また、6月18日(木)~6月21日(日)は、「前売券・招待券限定入場期間」とし、前売券および招待券をお持ちの方と無料鑑賞対象の方のみご入場いただけます。
詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。


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