February 22, 2018

生命力としてのアート

 
「緑のヘルシーロード」は、さいたま~川口に連なる見沼代用水路沿いののどかなサイクリングロードです。休日に度々ここを通り、見沼通船堀のあたりを訪れて、いつも県道103号の手前でUターンして戻っていましたが、103号を渡るとそこに「工房集」というアートに関わる施設があることを最近知りました。ここは普通のギャラリーとは大きく異なります。知的障がいのある方が作品を制作するアトリエであり、それらを展示公開するギャラリーでもあります。休日も鑑賞できる展示会が開催されていたので、初めて訪れてみることにしました。
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ほとんど予備知識のないまま来てみて、まず建物前庭の空間が放つクリエイティブマインドに、高レベルのプロの力を感じました。オブジェっぽい掲示ディスプレイや楽しくペイントされた地面や板のフェンスなどが効果的に配置され、施設に向けた人々の情熱が感じられて、何故か嬉しくなりました。しかし、あらかじめ展示会開催の知識がないと、ぶらりと入っていいかどうか躊躇してしまいます。でもそろりと入ってみると快く歓迎され安心しました。

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入ってすぐ右に白い壁のギャラリー空間があり、たくさんの作品が展示されていました。
そのギャラリー空間だけでなく、奥に続く廊下の壁や天井、飲食できるカフェの空間全部に、ドローイングをはじめ、織物やCG表現など、多様な作品が掲出されていました。それぞれ作者の写真と本人の特徴が記されており、ほのぼのとした気持ちにさせてくれます。

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作品はもちろんすべて秀逸なものというわけではなく、稚拙な殴り書きに見えるものも含まれます。しかしいくつもの作品は、何度もそしてじっくり見ていたくなります。はっとする色彩の表現やタッチが見られること、思いもつかない言葉の表現、それが故意のものではなく純粋に、造形を愉しむ帰結や痕跡であることが、気持ちを惹き付ける大きな要因なのかなと思いました。そして、それはその人の呼吸や生きてきた痕跡に関わること、さらにその表現を行うまでに長い葛藤を要したであろう背景などを含めて、大きく見れば生命力が発露したように感じてしまう・・・アーティストがコンセプチュアルに構築したアート表現では成し得ない表現を体感しているという印象です。ただし、この建物外観を見たときに感じた、この施設に力を入れる人々、職員の方々の導きがあって初めて生まれ得た世界なのだと推測します。
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この日は「大宮太陽の家」という施設のメンバーによる展示会でしたが、工房集の母体となっているのは、「みぬま福祉会」という社会福祉法人で、「川口太陽の家」をはじめとする埼玉県南部の22の施設を運営し、300人を超える利用者がいるとのことです。その中で130人ほどが「表現活動」に関わり、多岐にわたるアート表現を仕事として実践しているということなのです。労働の成果として作品はグッズとなって販売されたり、企業とのコラボでデザイン化されたりしています。
企業の下請け的な軽作業やお菓子作りという仕事の枠にとどまらず、それを行うのが困難な重度の知的障がい者にもその人にしかできない表現手段がある。それを仕事にするという発想から数々の素晴らしい作品を発信する工房が誕生することとなったということですが、その背後には、本人、職員、家族の、簡単な言葉で片付けられない根気の積み重ねがあってのことと思います。
帰り際には、施設の「仲間」の方が「ありがとうございました。」と丁寧に挨拶してくれ、気持ちをほっとさせてくれました。あらためて、表現に不可欠な人との関係性、さり気ない日常表現の蓄積の大切さ、そして生の営みとアートの結びつきについて想い起こし、考える契機を得たひとときでした。

■工房集
 川口市木曽呂1445   TEL 048-290-7356
 E-mail kobo-syu@marble.ocn.ne.jp
工房集HP http://kobo-syu.com
みぬま福祉会HP http://minuma-hukushi.com
アートセンター集HP http://artcenter-syu.com

■作品展のお知らせ
「存在×福祉×支援×アート-できないことの価値をめぐって-」
日時:2018年3月5日(月)~3月10日(土)
   10:00~17:00 会期中無休
場所:工房集ギャラリー

February 14, 2018

生誕150周年記念 横山大観

~時代を超越し語り継がれる巨匠が今年は熱い~


 今年2018年は、横山大観が生まれてから、ちょうど150年を迎える記念すべき年です。大観は明治元年(1868年)に茨城県で水戸藩士の長男として誕生。東京美術学校(現東京芸術大学美術学部の前身)の第1回生として入学、日本美術院の創立、第1回文化勲章受章など、明治から昭和を駆け抜けて活躍しました。
 今年は日本各地で、大観にちなんだ展覧会が開催されます。私は先日、東京は文京区の地下鉄江戸川橋駅から歩いて10分ほどにある、講談社野間記念館で開催されている「近代日本の風景画」展〜横山大観と富士を中心に〜(開催中〜3月4日(日)まで)を見に行きました。こちらの記念館は講談社の創業者である野間清治が収集した美術品と、出版文化資料、そして画家の村上豊の作品群の3つに大別される作品を所蔵しています。この度の企画展では、近代日本における風景画の創造と制作の取り組みに触れることができます。中でも印象に残ったのは、横山大観「富士・三保図」です。六曲一双の大きな画面に、富士が鮮やかな青と白い雪で、きりっと立ち上がった姿で描かれている迫力の名品です。また「富士百趣」という作品群は、いろいろな作家が富士の絵を描いたもので、それぞれの個性が出ていて大変興味深いです。川端龍子の富士はドンと存在感があり、山口蓬春の富士は繊細な青や緑色、中村岳陵は中でも一番とんがって上に伸びていました。こちらの記念館は鑑賞して疲れることもないちょうどよい大きさです。
 記念館を出たすぐ隣には「野菜倶楽部 oto no ha Café(オトノハカフェ)」があります。カフェは白い壁と三角屋根がかわいらしい建物。こちらでは静岡県にある直営農場で栽培した野菜やフルーツを使った料理を提供しています。そのためか野菜が種類も量も盛りだくさんに使われています。見た目にも美しく、味も美味しい。テラス席もあるので陽気の良い日には外で食事したくなります(今は寒いのでちょっとつらいですが)。
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 更に、今年の4月13日(金)から「生誕150年 横山大観展」が東京国立近代美術館で開催されます(5月27日(日)まで)。代表作を網羅した10年ぶりの大回顧展となれば見に行くしかありません。その後6月8日(金)〜7月22日(日)の期間、京都国立近代美術館で開催。今年は横山大観が注目を集めそうです!

 当社ではこの横山大観の生誕150周年を記念して、「横山大観 生誕150周年記念 傑作選」のカタログを制作しました。初期の「無我」、朦朧体による代表作「曳船」、富士と旭日のパノラマ「神州第一峰(右隻・左隻)」、山桜の薄紅も美しい「霊峰春色」、瑞光を背景に白く輝く富士と飛翔する鶴の吉祥画で国際観光年記念切手にもなった「霊峰飛鶴」。これら大観芸術の名作を取りそろえています。カタログのご用命がございましたら下記にご連絡をください。


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(カタログの画像は表紙と裏表紙です。)
TEL:03-3817-2290(受付時間:土日祝日を抜かす平日の10:00~17:00) 
FAX:03-3817-2288(FAXは24時間受付)
番号はおかけ間違えのないようにご確認ください。 
個人情報のお取扱について:当社ホームページをご覧ください。
https://www.kyodoprinting.co.jp/privacy/use.html

February 8, 2018

新商品 ルノワール「二人の姉妹-テラスにて-」のご案内


いつもブログ「美術趣味」をご覧頂きましてありがとうございます。

この度弊社では、印象派の巨匠ピエール・オーギュスト・ルノワール<二人の姉妹-テラスにて->の高級複製画を限定200部で制作、販売を開始しました。

ルノワールは来年2019年に没後100年という節目を迎えます。日本人には最も人気のある作家の一人です。記憶に新しいところでは、2016年国立新美術館で開催された「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」が、美術展覧会年間入場者数1位に輝きました。代表作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》(1876)が初来日して大きな話題をよび、動員数はなんと66万7897人だったようです。

ルノワールは風景画、花などの静物画も描きましたが、代表作の多くは人物画であります。本商品はルノワールの作品のなかでも、もっとも親しまれている人物画のひとつで、セーヌ川に浮かぶシャトゥー島に今も残るレストランのテラスを舞台としています。光り輝く水面と樹々を背景に、穏やかに微笑む年若い女性と愛くるしい少女は、つかの間の休息をリラックスしているかのようです。バスケットに入れられた色とりどりの毛糸玉や少女のかぶる帽子の花飾りが、二人の姿をより一層明るく華やかに引き立てます。ルノワール絵画特有の「若さ」と「喜び」が画面全体に満ちあふれた作品です。


ルノワールが永遠のものにしようとした「幸福」の情景を、原画を所蔵するシカゴ美術館から正式に提供された画像を使い、当社独自の技法「彩美版®」で再現しました。ぜひお手元でお楽しみください。


ブログ二人の姉妹.jpgⒸThe Art Institute of Chicago/Brigeman Images/PPS通信社



[仕様体裁]
ルノワール「二人の姉妹-テラスにて-」本体価格 115,000円(税別)
限定:200部
画寸:天地53.0cm×左右43.0cm
額寸:天地66.0cm×左右56.0cm×厚み2.8cm
技法:彩美版®シルクスクリーン手刷り
用紙:キャンバス
重量:3.5kg
額縁:木製金箔額(国産ハンドメイド)、アクリル付
監修:横山由季子(美術史家/国立新美術館 アソシエイトフォロー)

February 2, 2018

【商品紹介】横山大観《霊峰春色(れいほうしゅんしょく)


 いつもブログ『美術趣味』をご覧頂きましてありがとうございます。

 稀にみる冬の厳しい寒波を受け、各地で零下や大雪に見舞われたりと影響が出ています。気温の低い状態も続く様で、2月4日の立春をすぎても、春の訪れはまだまだ先となりそうです。そんな寒い中ではありますが、2月3日に節分を迎えます。

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 昔は『季節を分ける』『せち分かれ』という意味合いがあり、立春、立夏、立秋、立冬の季節の始まりの日の前日を節分と言ったそうです。現在では冬から春になる立春の前日、2月3日だけが春の節分の行事として残りました。

 季節の変わり目には鬼が出ると言われ、節分に豆をまいて鬼を払うのは室町時代から続いているそうです。豆は悪い物を追い払う意味合いもあり(「魔目※ま(鬼)の目」⇒まめ、「魔滅」など)、炒った豆を必ず使うのは豆(魔目)を炒る(射る)ことで鬼をやっつけることに通ずるそうです。そして豆を食べることで、鬼退治が完了したことになるそうで併せて数え年の数だけ食べると、病気にならず健康でいられると言われています。
 風邪やインフルエンザも流行る季節ではありますが、皆様どうかお体をご自愛くださいませ。

 今回は、今年生誕百五十年の記念年を迎え、東京・京都で大規模な回顧展が開催される横山大観の富士をご紹介します。大観は近代日本画の礎を築き、明治・大正・昭和の三代において常に画壇を代表する存在でありつづけた巨匠です。

 ご紹介の《霊峰春色》は、古希を超えてなお画技も気力も高揚した時期の名作です。雲煙は幽玄な雰囲気を醸し出し、富士と桜を配することで戦時下における国威発揚を示す時代背景に加え、大観独特の気品や情緒といった精神的な象徴性がうかがえます。白く頂く霊峰は胡粉と墨彩でくっきり描かれ、富士の白肌が雲煙の中で静かに輝きを放っています。山桜の薄紅色が華やかさを添える、気品に満ちた名作を当社が誇る彩美版の技法にて再現いたしました。是非お手元でお楽しみください。




彩美版®
横山大観 《霊峰春色》 
販売価格 250,000円+税
限定200部発行


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<仕様体裁>
監修 横山 隆(横山大観記念館代表理事兼館長)
原画所蔵と解説 桑山美術館(名古屋市)
技法 彩美版®、シルクスクリーン併用
用紙 特製絹本
額縁 特製木製額金泥仕上げ(アクリル付)
    クロス貼りタトウ入り、黄布袋、吊金具、紐付き
画寸 天地50.0×左右65.0cm
額寸 天地71.0×左右86.0cm
重量 約6.6kg
証明 額裏に監修者の承認印・限定番号入り証紙を貼付
発行 共同印刷株式会社


※寸法・重量は天然材料を使用しており手作りのため、表記と若干異なる場合があります。
※「彩美版®」は共同印刷株式会社の登録商標です。
※本ブログ掲載記事及び画像等の無断転載を禁じます。

January 26, 2018

蕾 ~春を待ちわびて~ 小石川植物園より


 蕾(つぼみ);まだ開いていない状態の花のこと。転じて、前途有望(な若者)を指すことも。


 大寒を迎え、先日は都内でも雪が舞い積もりました。寒さ身に染みる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 さて、このような寒い季節において、いったい植物はどんな表情をしているのでしょうか?当ブログを通じて皆さまと共有するため、私は先日、会社の近くにある「小石川植物園」を散策してきました。

 案の定、植物園にあるほとんどの植物は、葉のない枝ぶりが寒さと合いまって物憂げに佇んでいました。しかし、近づいて枝の先を凝視してみると、植物ごとに形の異なる「蕾」がしっかりと膨らんでいました。実のところ私自身も「蕾」を撮影したいと思って散策したのですが、まさかここまで面白い写真が撮影できるとは思いませんでした。以下の写真は、植物ごとにその形が異なる「蕾」の、小石川植物園コレクションです。1点ずつ膨らむ蕾、連なる蕾、丸い蕾...。それぞれの植物が、それぞれ春に花を咲かせるために独自の容姿をした蕾を膨らませており、蕾散策が楽しくなってきました。


ケヤキ.JPG
サンシュユ.JPG
シナミズキ.JPG
ソメイヨシノ.JPG
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写真:上から、ケヤキ(欅)、サンシュユ(山茱萸)、シナミズキ(支那水木)、ソメイヨシノ(染井吉野)、ヤクシマツバキ(屋久島椿)


 私が小学生だったとき、いまだに記憶に残っている担任の先生の印象的な言葉があります。「一月は行っちゃう、二月は逃げちゃう、三月は去っちゃう。つまり一月から三月の三学期はいつの間にか時間が過ぎてしまうので、一日一日を大事に過ごしましょう。」

 暦はもう一月末。つい先日過ごしたお正月からすでに一ヵ月が経過しようとしています。そんな中、植物たちは蕾の状態で養分を蓄え、冬の寒さに耐えながら日に日に春へ向けた準備をしています。私たちも蕾が花を咲かせるまでの季節の移ろいを肌で感じながら、一日一日を大切に過ごしたいものです。

 それでは、お身体ご自愛ください。




【小石川植物園のご紹介】

■所在地
 東京都文京区白山3-7-1
■開園(入園)時間
 9:00~16:30(入園は16:00まで)
■休園日
 毎週月曜日(月曜日が休日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
■入園料
 一般400円/小・中学生100円/大学生・短大生・高校生250円/幼稚園児・保育園児は無料/その他、団体割引あり。
■アクセス
 都営バス  上60系統(池袋東口~上野公園間)「白山2丁目」下車 徒歩約3分
 都営地下鉄 三田線「白山」下車、徒歩約10分
 東京メトロ 丸ノ内線「茗荷谷」下車、徒歩約15分


January 19, 2018

永井荷風と木村伊兵衛 -二人の芸術家の邂逅-


 来年生誕140年、没後60年の記念イヤーを迎える作家永井荷風(1879~1959)だが、著作は勿論のこと、その生き方も多くのファンを惹きつけてやまない。
 荷風像として、「黒縁の丸メガネをかけ、六尺豊かの長身を中折れ帽と三つ揃いのスーツに包み、手には雨傘と小さな手鞄を持っている」姿が定着しているが、こうしたイメージが書籍などに掲載された写真から形作られたであろうことは言うまでもない。恐らく荷風像の原型とも言うべき一連の写真が戦前・戦後を通じて活躍した写真家・木村伊兵衛(1901~1974)によって撮影されたものであることは、意外に知られていないのではないか。


 木村伊兵衛をご存じない方のためにその略歴をご紹介しよう。
 明治34年(1901)東京下谷で製紐業を営む家の長男として生まれ、大正13年(1924)開業した写真館が写真家としてのスタート地点となる。花王石鹸長瀬商会の広告部嘱託を経て、昭和8年(1933)名取洋之助らと日本工房を設立。長谷川如是閑、横光利一ら著名作家の肖像写真による写真展を開き一躍注目を集める存在となった。
 ポートレートやスナップ写真を得意とし「ライカの神様」として広く知られる。昭和15年(1940)日本画壇を代表する四人の巨匠(横山大観、上村松園、鏑木清方、川合玉堂)のポートレートによる英文写真集『Four Japanese Painters』を刊行。戦後は昭和25年(1950)に設立された日本写真家協会(JPS)の初代会長に就任(~昭和32年)し、昭和31年(1956)には写真家として初めて芸術選奨文部大臣賞を受賞するなど写真界の重鎮として存在感を示し、昭和43年(1968)紫綬褒章を受章した。
 没後の昭和50年(1975)、日本写真界の発展に絶大な貢献をなした伊兵衛を顕彰した「木村伊兵衛写真賞」が朝日新聞社により創設され、我が国写真界で最も権威ある賞として現在に至る。平成16年(2004)には東京国立近代美術館で「木村伊兵衛展」が開催された。


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荷風が再発見した葛羅之井古碑と傍らに立つ老榎(船橋市西船)
「・・・何となく大田南畝の筆らしく思われたので、傍の溜り水にハンケチを濡し、石の面に選挙侯補者の広告や何かの幾枚となく貼ってあるのを洗い落して見ると、案の定、蜀山人の筆で葛羅の井戸のいわれがしるされていた。」(永井荷風『葛飾土産』より)


 さて、荷風は昭和29年1月に芸術院会員に選出されているが、木村伊兵衛はこの年の5月19日、中央公論社の依頼で荷風の日常生活に密着した撮影を行った。伊兵衛の写真はまず同年の『中央公論』7月号に「ある日の荷風先生」として掲載され、その後昭和40年(1965)には装幀家・佐々木桔梗(1922~2007)により伊兵衛の写真(オリジナルプリント)と荷風の文とを組み合わせた豪華本『葛飾土産より』が出版された。(コレクションサフィール第10輯、プレス・ビブリアマーヌ刊、限定199部)

 荷風の日記、『断腸亭日乗』には次のよう記されている。

 「五月十九日。隂。小山氏来話。午後島中高梨両氏写真師を伴ひ来話。錦糸堀新井工場に相磯氏を訪ふ。今戸橋及び雷門を歩み永田町八百善に至り晩餐の馳走になる。家に帰る正に十二時なり。」

 「小山氏」は荷風研究家で随筆家としても知られた小門勝二、「島中、高梨両氏」は中央公論社社長の嶋中鵬二、同社専務の高梨茂。「相磯氏」は戦前からの友人で晩年の荷風を支えた実業家・相磯凌霜を指す。


 中央公論社の嶋中社長、高梨専務が伴った「写真師」が木村伊兵衛である。芸術家のポートレート写真で著名な写真界の重鎮伊兵衛を起用したのは、気難しい老大家への気遣いでもあったろう。戦前から幾人もの著名な小説家を撮影した実績のある伊兵衛は、当時日本写真家協会会長の重責を担う存在でもあった。
 荷風は戦前、二眼レフの名機ローライを所有(購入したのは代表作『濹東綺譚』脱稿の翌日)し撮影から現像まで行っており、昭和13年(1938)には自身が撮影した写真24枚をカットに用いた小説随筆集『おもかげ』(岩波書店)を出版している。また伊兵衛は、戦前外務省の依頼で歌舞伎の舞台撮影も行い『六代目尾上菊五郎舞台写真集』などを刊行しているが、荷風も青年時代に歌舞伎座の立作者福地桜痴に入門し作者見習いとして拍子木を打った経験があり、親友だった二代目市川左團次(松莚)をはじめ歌舞伎界に知己が少なくなかった。こうした背景から荷風が伊兵衛をまるで知らなかったとは考えにくいが、日記には「写真師」とそっけなく切り捨てるように書き残しているところがいかにも荷風らしい。


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真間川にかかる「柳橋」(市川市二俣~船橋市本中山附近)
「・・・然るにわたくしは突然セメントで築き上げた、しかも欄干さえついているものに行き会ったので、驚いて見れば「やなぎばし」としてあった。」(永井荷風『葛飾土産』より)


 当時荷風は市川市の菅野に住んでいた。荷風の日常に密着取材し、昭和25年に中央公論社から出版された随筆『葛飾土産』の舞台となった市川・船橋周辺や当時荷風が日参していた浅草周辺でロケを行っている。この時伊兵衛が撮影した荷風の姿は冒頭に記した「荷風像」そのものであり、伊兵衛にとっても代表作のひとつとなった。当時、伊兵衛の助手を務めていた写真家・田沼武能の述懐によると、いつもは2、3本で撮り終える伊兵衛が荷風には5本のフィルムを使ったという。これらの写真は現在まで荷風を扱った様々な出版物に掲載されているが、中でも浅草仲見世の雑踏に佇む荷風を撮影した作品が恐らく最も有名ではないだろうか。背景に写る看板や軒先の提灯(洋傘の専門店モリタ、フジヤなど)と人々の歩む方向から考えると、荷風は仲見世通りと新仲見世通りの交差点の真ん中に立っているらしい。荷風の背中側が雷門方向であるが雷門の姿はない。幕末に火災で焼失して以来雷門は100年近く再建されずその時々に架設の門が設けられたと言い、この当時現在のような雷門は存在しなかった。今の雷門は昭和35年(1960)、松下幸之助の寄進により建設された。


 この写真に対する評価は様々あると思うが、私には晩年の荷風の孤独感が映し出されているように感じる。にぎやかな雑踏に溶け込むことなく一人佇立する老大家。荷風は山の手の富裕な家庭に育ち、江戸以来の庶民の文化や生活に憧れをいだきつつも、けっして馴染むことができなかった。長年住み慣れた麻布の偏奇館から戦災で焼け出され、戦後は田園風景が残る市川に隠棲した。親しかった従弟の杵屋五叟一家や荷風を敬慕していたフランス文学者小西茂也一家との同居生活は相次いで破綻し、69歳にして再び一人生きることを選択したのが昭和23年(1948)、6年前のこと。名人伊兵衛は、荷風の心の内に潜む悲劇性をレンズを通して先鋭に描き出している。


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夕闇迫る妙行寺の塔(市川市原木)
「流の幅は大分ひろく、田舟の朽ちたまま浮んでいるのも二、三艘に及んでいる。一際こんもりと生茂った林の間から寺の大きな屋根と納骨堂らしい二層の塔が聳えている。」(永井荷風『葛飾土産』より)

January 12, 2018

人気のゴッホ展 いよいよ京都へ


新年明けましておめでとうございます。
いつもブログ≪美術趣味≫をご覧いただき、まことにありがとうございます。
今冬はひときわ厳しい寒さが続いております。皆さまも健康には十分お気をつけ下さい。

さて上野の東京都美術館ではさる8日まで「ゴッホ展 巡り行く日本の夢」東京展が開催されました。わたくしは昨年末に鑑賞しましたので、ご参考までにレポートいたします。

展覧会のテーマはゴッホと「日本」の深い関わりを、ファン・ゴッホ美術館との国際共同プロジェクトのもと、新しい切り口で解き明かすという興味深いものでした。近年の研究成果も含め、ゴッホの創作の原動力となった日本への憧れと南仏アルルでの夢と挫折、ゴッホ死後の賞賛と理想化、後世への多大なる影響を丁寧に辿って行きます。

19世紀後半、東洋のエキゾチシズムに関心が高まりフランスにおいてジャポニスムが興隆した時代、ゴッホもまた日本の浮世絵に強く魅かれ、浮世絵の収集に走ります。自らも浮世絵版画を模写した油彩画を描き、「日本」にオマージュを捧げました(ゴッホ《花魁(渓斎英泉による)》)。日本では画家同士が師弟関係を結び、流派を築き芸道に切磋琢磨する様を知り、日本を理想の国と夢見ます。南仏の地アルルに日本のイメージをダブらせ、日本人のように画家同士で共同生活を営むことが、新しい芸術を生み出すと考えました。

理想と現実とのギャップからゴーギャンとのアルルでの共同生活は無残にも破綻し、ゴッホは精神的に深いダメージを負いましたが、却ってゴッホの芸術は一段と凄みを増し、他に類を見ないほどの前人未踏の境地に達したことはご存知の通りです。

ゴッホの死後、文物でその存在を知った日本の画家や文化人たちが、ゴッホゆかりの地を訪ね追悼を捧げるさまを関連資料で紹介し、展覧会は幕を閉じます。

このようにゴッホと「日本」をテーマに構成された展覧会は、充実した関連作品の展示もあって実に見応え十分の内容でありました。

年末の館内は待ち時間はなかったものの沢山の人で溢れかえっておりました。

注目のゴッホ展は北海道から東京を巡り、いよいよ1月20日からはファイナルの京都展を迎えます。関西のゴッホ・ファンの皆さま、どうぞお楽しみに。


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【京都展 展覧会情報】
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢
会場 京都国立近代美術館
会期 1月20日(土)-3月4日(日) ※月曜休館(2月12日振休は開館)
時間 9:30~17:00 (金曜・土曜および11月2日は午後8時まで)



尚、お客さまからは弊社のゴッホ複製画のタイトルについてお問い合わせをいただくことが多くなっております。今回のゴッホ展にて本邦初公開された《夾竹桃と本のある静物》はこの展覧会において命名されたものですが、所蔵館のメトロポリタン美術館の目録では≪Oleanders≫(=夾竹桃)と記されており、フランスのレゾネでも≪Les lauriers roses≫として登録されております。弊社では当該作品の複製にあたり外国の表記に倣い《夾竹桃‐ローリエ・ローズ‐》と名付け、ゴッホの絵画制作史上における重要な結節点とも呼ぶべき本作を共同印刷の独自技法である彩美版®にて制作いたしました。



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©The Metropolitan Museum of Art.Image source:Art Resource,NY/PPS通信社




彩美版®
ゴッホ 《夾竹桃 ‐ローリエ・ローズ‐》

販売価格 115,000円+税
限定200部発行


■仕様体裁
監 修 千足 伸行 (美術史家/成城大学名誉教授/広島県立美術館館長)
技 法 彩美版®、シルクスクリーン手摺り
用 紙 キャンバス
額 縁 木製金箔額(国産ハンドメイド)、アクリル付き
画 寸 天地42.7×左右53.0㎝(10号)
額 寸 天地55.7×左右66.0×厚さ3.0㎝
重 量 約3.5㎏
発 行 共同印刷株式会社

※「彩美版®」は共同印刷株式会社の登録商標です。


あの有名な《ひまわり》と並ぶアルル時代の静物画の傑作を、ぜひ貴方様のお手元でご鑑賞下さい。

最後に本年も美術趣味をどうぞよろしくお願いいたします。

December 22, 2017

ツイッターはじめました。


いつもブログ『美術趣味』をご覧いただきまして、ありがとうございます。


ツイッターをはじめました!
アート&カルチャー部の公式アカウントです!
【twitter】 @kyodo_art

是非、今すぐフォローをお願いいたします!→https://twitter.com/kyodo_art


共同印刷ではこれまで、日本画・洋画の巨匠アートをお届けして参りました。
...が、
東山魁夷好き、ゴジラ好き、ゴッホ好き、ゲームキャラクター好きのあらゆるアートファンの方々...
などなどさらに幅広い感性豊かな皆さま方のご期待にこたえられるよう、
バリエーション豊かなハイクオリティアートをご用意いたしました。

デジタルアートやキャラクターデザイン分野における、
人気アーティスト、これから注目のアーティストの作品を、
長年培った確かな技術を用いて新たな形でお届けして参ります。

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皆さまに本当に良いと思っていただける、品質を追求したこだわり満載のものができあがりました!
西川伸司先生作品、アオガチョウ先生の各2作品ご紹介しております。完全ご予約制作、限定あり!
ぜひぜひツイッターで詳細情報をチェックしてください!
ご予約お待ちしております!
(2017年12月25日まで ※下記フォームよりご予約いただけます。)

【アーティストサイン入り高級複製画申込フォーム】
コチラからどうぞ!→https://goo.gl/forms/tyHUfKE1BaGLAeYi1 


December 13, 2017

冬のきらめき

そろそろ暮れのあわただしい空気に包まれ、推移する時間のスピードを実感する季節となりました。
この時期に欠かせない風物はイルミネーション。全国各地で競うように光の装飾が施されています。煌びやかさに誘われるように、近隣にあるさいたま新都心の、けやきひろばに行ってきました。
行きつけの映画館近くでもあり、毎年目にする光景ですが、夜浮かび上がる光のシルエットはやはり目を奪われ、気持ちを動かします。青やゴールドで包まれたケヤキが林立し、テントのお店が立ち並ぶクリスマスマーケットが開催されています。寒さの中に心地よい温もりを感じる場です。
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芝生広場と呼ばれるエリアには、中心にパイプオルガンのようなオブジェが輝き、その周囲の装飾とともに音楽に合わせた光の演出が行わます。幻想的でロマンティックな情景を前にしばし佇んでいました。
訪れた時間がマーケット終了近くだったため、賑わいがあまりなく、美しさの中にもの悲しさがにじむ印象でした。
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翌日、もう1つ光のきらめきを目にしました。
都内の病院の窓から見えた東京タワーです。夕暮れとともにライトが付き、暗くなっていくとともに、塔を包む光が強く感じられてきます。曜日・時間により、演出された華やかなライトアップも行われるようですが、この日は通常の輝きでした。冬の薄暮の中に浮かぶそのシルエットは、美しくもやはり強い光のきらめきとは異なる、微かな憂いを感じたのは私だけでしょうか。
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■さいたま新都心 けやきひろばイルミネーション2017-18
 さいたま市中央区新都心10番地 けやきひろば   TEL 048-822-2712
 点灯期間:2017年10月21日(土)~2018年2月14日(水)
 点灯時間:17:00~24:00

December 4, 2017

新商品のご案内 小倉遊亀「舞妓」

文化勲章受章
小倉遊亀「舞妓」
〜初春を迎えるにあたり、至高の逸品をご紹介します。〜

いつもブログ≪美術趣味≫をご覧いただきまして、まことにありがとうございます。
この度は文化勲章受章画家、小倉遊亀の新商品「舞妓」をご案内いたします。

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<日本を代表する画家、小倉遊亀>
 小倉遊亀は1895年に滋賀県大津市に生まれました。奈良女高等師範学校を総代で卒業。画家になる決心をしてから、安田靫彦に師事します。女性として初めて日本美術院同人に推挙されました。山岡鉄舟門下の禅徒・小倉鉄樹と結婚して北鎌倉に居を構え、精力的に創作に励みます。日本芸術会員に任命、日本美術院理事に就任、女性として三人目の文化勲章受章など輝かしい実績をあげました。正しく日本を代表する画家なのです。

<来君との出会い>
 本商品に描かれている舞妓の名前は来君(らいきみ)といいます。小倉遊亀が来君と出会ったのは先斗町の舞妓たちを集めてモデル選びをした時でした。一番後ろにいて、目立たない来君に心惹かれた小倉遊亀はモデルに決めました。そして来君のモデルとして覚悟を決めて任せ切った真剣な表情に、仏を見たと語っています。

<宇宙を飲み込む空間、彩美版のこだわり>
 小倉遊亀がこだわり抜いた背景にも目を向けてください。プラチナ泊を全面に押した後で、胡粉を約200回おもかけて白い背景を作り上げたました。さらに画面に向かって左上の色が変わっているところは、重ねた胡粉をわざわざ拭き取ってプラチナ泊の地を改めて見せています。このこだわりの背景を本商品は、職人が刷るシルクスクリーンに高価なプラチナ泥を用い、原画の持つ絵の鼓動までも表現しています。

<国産の高級額が作品を引き立てます>
 本商品は熟練した職人が丁寧に仕上げた国産のハンドメイド額を採用しています。特注木製額には高級感あふれる金泥を使用し、さらに金襴のマットが優雅に煌めいています。

<正式許諾品の証>
 本商品には正式に著作権者が監修をした証として、額の裏面に著作家者の承認印と限定番号が入れられた奥付シールが貼られています。さらに、表の画面左下にも、承認印と手書きの限定番号が入っています。しかもお作りできるのは200部の限定数だけになります。
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<仕様体裁>
限定:200部
技法:彩美版(R)シルクスクリーン手刷り
プラチナ泥一部使用
用紙:版画用紙
額縁:特注木製額金泥仕上げ、アクリル付き、金箔面金付き布マット
画面寸法:天地45.5×左右38.3cm
額寸法:天地65.5×左右58.3cm
重量:約3.0kg


監修:有限会社鉄樹
解説:國賀由美子(大谷大学教授)
原画所蔵:京都国立近代美術館
証明:著作権者承認印を奥付と画面左下部に押印
発行:共同印刷株式会社
本体価格:180,000円(消費税は別途申し受けます)


寸法・重量等は、天然材料を使用し、一点ずつ手作りのため、表記と異なる場合がございます。
作品の色彩等、画面と現品で多少異なる場合がありますが、ご了承願います。
彩美版(R)は共同印刷株式会社の登録商標です。

プロフィール

共同印刷株式会社SP&ソリューションセンター アート&カルチャー部では、日本画を中心とした複製画や版画の制作、販売をてがけています。制作の裏側や、美術に関係したエッセーを続々とアップしていきます。尚、このサイトの著作権は共同印刷株式会社又は依頼した執筆者に帰属します。

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