January 26, 2018

蕾 ~春を待ちわびて~ 小石川植物園より


 蕾(つぼみ);まだ開いていない状態の花のこと。転じて、前途有望(な若者)を指すことも。


 大寒を迎え、先日は都内でも雪が舞い積もりました。寒さ身に染みる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 さて、このような寒い季節において、いったい植物はどんな表情をしているのでしょうか?当ブログを通じて皆さまと共有するため、私は先日、会社の近くにある「小石川植物園」を散策してきました。

 案の定、植物園にあるほとんどの植物は、葉のない枝ぶりが寒さと合いまって物憂げに佇んでいました。しかし、近づいて枝の先を凝視してみると、植物ごとに形の異なる「蕾」がしっかりと膨らんでいました。実のところ私自身も「蕾」を撮影したいと思って散策したのですが、まさかここまで面白い写真が撮影できるとは思いませんでした。以下の写真は、植物ごとにその形が異なる「蕾」の、小石川植物園コレクションです。1点ずつ膨らむ蕾、連なる蕾、丸い蕾...。それぞれの植物が、それぞれ春に花を咲かせるために独自の容姿をした蕾を膨らませており、蕾散策が楽しくなってきました。


ケヤキ.JPG
サンシュユ.JPG
シナミズキ.JPG
ソメイヨシノ.JPG
ヤクシマツバキ.JPG
写真:上から、ケヤキ(欅)、サンシュユ(山茱萸)、シナミズキ(支那水木)、ソメイヨシノ(染井吉野)、ヤクシマツバキ(屋久島椿)


 私が小学生だったとき、いまだに記憶に残っている担任の先生の印象的な言葉があります。「一月は行っちゃう、二月は逃げちゃう、三月は去っちゃう。つまり一月から三月の三学期はいつの間にか時間が過ぎてしまうので、一日一日を大事に過ごしましょう。」

 暦はもう一月末。つい先日過ごしたお正月からすでに一ヵ月が経過しようとしています。そんな中、植物たちは蕾の状態で養分を蓄え、冬の寒さに耐えながら日に日に春へ向けた準備をしています。私たちも蕾が花を咲かせるまでの季節の移ろいを肌で感じながら、一日一日を大切に過ごしたいものです。

 それでは、お身体ご自愛ください。




【小石川植物園のご紹介】

■所在地
 東京都文京区白山3-7-1
■開園(入園)時間
 9:00~16:30(入園は16:00まで)
■休園日
 毎週月曜日(月曜日が休日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
■入園料
 一般400円/小・中学生100円/大学生・短大生・高校生250円/幼稚園児・保育園児は無料/その他、団体割引あり。
■アクセス
 都営バス  上60系統(池袋東口~上野公園間)「白山2丁目」下車 徒歩約3分
 都営地下鉄 三田線「白山」下車、徒歩約10分
 東京メトロ 丸ノ内線「茗荷谷」下車、徒歩約15分


January 19, 2018

永井荷風と木村伊兵衛 -二人の芸術家の邂逅-


 来年生誕140年、没後60年の記念イヤーを迎える作家永井荷風(1879~1959)だが、著作は勿論のこと、その生き方も多くのファンを惹きつけてやまない。
 荷風像として、「黒縁の丸メガネをかけ、六尺豊かの長身を中折れ帽と三つ揃いのスーツに包み、手には雨傘と小さな手鞄を持っている」姿が定着しているが、こうしたイメージが書籍などに掲載された写真から形作られたであろうことは言うまでもない。恐らく荷風像の原型とも言うべき一連の写真が戦前・戦後を通じて活躍した写真家・木村伊兵衛(1901~1974)によって撮影されたものであることは、意外に知られていないのではないか。


 木村伊兵衛をご存じない方のためにその略歴をご紹介しよう。
 明治34年(1901)東京下谷で製紐業を営む家の長男として生まれ、大正13年(1924)開業した写真館が写真家としてのスタート地点となる。花王石鹸長瀬商会の広告部嘱託を経て、昭和8年(1933)名取洋之助らと日本工房を設立。長谷川如是閑、横光利一ら著名作家の肖像写真による写真展を開き一躍注目を集める存在となった。
 ポートレートやスナップ写真を得意とし「ライカの神様」として広く知られる。昭和15年(1940)日本画壇を代表する四人の巨匠(横山大観、上村松園、鏑木清方、川合玉堂)のポートレートによる英文写真集『Four Japanese Painters』を刊行。戦後は昭和25年(1950)に設立された日本写真家協会(JPS)の初代会長に就任(~昭和32年)し、昭和31年(1956)には写真家として初めて芸術選奨文部大臣賞を受賞するなど写真界の重鎮として存在感を示し、昭和43年(1968)紫綬褒章を受章した。
 没後の昭和50年(1975)、日本写真界の発展に絶大な貢献をなした伊兵衛を顕彰した「木村伊兵衛写真賞」が朝日新聞社により創設され、我が国写真界で最も権威ある賞として現在に至る。平成16年(2004)には東京国立近代美術館で「木村伊兵衛展」が開催された。


葛羅之井古碑と傍らの榎_BW.jpg
荷風が再発見した葛羅之井古碑と傍らに立つ老榎(船橋市西船)
「・・・何となく大田南畝の筆らしく思われたので、傍の溜り水にハンケチを濡し、石の面に選挙侯補者の広告や何かの幾枚となく貼ってあるのを洗い落して見ると、案の定、蜀山人の筆で葛羅の井戸のいわれがしるされていた。」(永井荷風『葛飾土産』より)


 さて、荷風は昭和29年1月に芸術院会員に選出されているが、木村伊兵衛はこの年の5月19日、中央公論社の依頼で荷風の日常生活に密着した撮影を行った。伊兵衛の写真はまず同年の『中央公論』7月号に「ある日の荷風先生」として掲載され、その後昭和40年(1965)には装幀家・佐々木桔梗(1922~2007)により伊兵衛の写真(オリジナルプリント)と荷風の文とを組み合わせた豪華本『葛飾土産より』が出版された。(コレクションサフィール第10輯、プレス・ビブリアマーヌ刊、限定199部)

 荷風の日記、『断腸亭日乗』には次のよう記されている。

 「五月十九日。隂。小山氏来話。午後島中高梨両氏写真師を伴ひ来話。錦糸堀新井工場に相磯氏を訪ふ。今戸橋及び雷門を歩み永田町八百善に至り晩餐の馳走になる。家に帰る正に十二時なり。」

 「小山氏」は荷風研究家で随筆家としても知られた小門勝二、「島中、高梨両氏」は中央公論社社長の嶋中鵬二、同社専務の高梨茂。「相磯氏」は戦前からの友人で晩年の荷風を支えた実業家・相磯凌霜を指す。


 中央公論社の嶋中社長、高梨専務が伴った「写真師」が木村伊兵衛である。芸術家のポートレート写真で著名な写真界の重鎮伊兵衛を起用したのは、気難しい老大家への気遣いでもあったろう。戦前から幾人もの著名な小説家を撮影した実績のある伊兵衛は、当時日本写真家協会会長の重責を担う存在でもあった。
 荷風は戦前、二眼レフの名機ローライを所有(購入したのは代表作『濹東綺譚』脱稿の翌日)し撮影から現像まで行っており、昭和13年(1938)には自身が撮影した写真24枚をカットに用いた小説随筆集『おもかげ』(岩波書店)を出版している。また伊兵衛は、戦前外務省の依頼で歌舞伎の舞台撮影も行い『六代目尾上菊五郎舞台写真集』などを刊行しているが、荷風も青年時代に歌舞伎座の立作者福地桜痴に入門し作者見習いとして拍子木を打った経験があり、親友だった二代目市川左團次(松莚)をはじめ歌舞伎界に知己が少なくなかった。こうした背景から荷風が伊兵衛をまるで知らなかったとは考えにくいが、日記には「写真師」とそっけなく切り捨てるように書き残しているところがいかにも荷風らしい。


真間川に掛る柳橋_BW.jpg
真間川にかかる「柳橋」(市川市二俣~船橋市本中山附近)
「・・・然るにわたくしは突然セメントで築き上げた、しかも欄干さえついているものに行き会ったので、驚いて見れば「やなぎばし」としてあった。」(永井荷風『葛飾土産』より)


 当時荷風は市川市の菅野に住んでいた。荷風の日常に密着取材し、昭和25年に中央公論社から出版された随筆『葛飾土産』の舞台となった市川・船橋周辺や当時荷風が日参していた浅草周辺でロケを行っている。この時伊兵衛が撮影した荷風の姿は冒頭に記した「荷風像」そのものであり、伊兵衛にとっても代表作のひとつとなった。当時、伊兵衛の助手を務めていた写真家・田沼武能の述懐によると、いつもは2、3本で撮り終える伊兵衛が荷風には5本のフィルムを使ったという。これらの写真は現在まで荷風を扱った様々な出版物に掲載されているが、中でも浅草仲見世の雑踏に佇む荷風を撮影した作品が恐らく最も有名ではないだろうか。背景に写る看板や軒先の提灯(洋傘の専門店モリタ、フジヤなど)と人々の歩む方向から考えると、荷風は仲見世通りと新仲見世通りの交差点の真ん中に立っているらしい。荷風の背中側が雷門方向であるが雷門の姿はない。幕末に火災で焼失して以来雷門は100年近く再建されずその時々に架設の門が設けられたと言い、この当時現在のような雷門は存在しなかった。今の雷門は昭和35年(1960)、松下幸之助の寄進により建設された。


 この写真に対する評価は様々あると思うが、私には晩年の荷風の孤独感が映し出されているように感じる。にぎやかな雑踏に溶け込むことなく一人佇立する老大家。荷風は山の手の富裕な家庭に育ち、江戸以来の庶民の文化や生活に憧れをいだきつつも、けっして馴染むことができなかった。長年住み慣れた麻布の偏奇館から戦災で焼け出され、戦後は田園風景が残る市川に隠棲した。親しかった従弟の杵屋五叟一家や荷風を敬慕していたフランス文学者小西茂也一家との同居生活は相次いで破綻し、69歳にして再び一人生きることを選択したのが昭和23年(1948)、6年前のこと。名人伊兵衛は、荷風の心の内に潜む悲劇性をレンズを通して先鋭に描き出している。


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夕闇迫る妙行寺の塔(市川市原木)
「流の幅は大分ひろく、田舟の朽ちたまま浮んでいるのも二、三艘に及んでいる。一際こんもりと生茂った林の間から寺の大きな屋根と納骨堂らしい二層の塔が聳えている。」(永井荷風『葛飾土産』より)

January 12, 2018

人気のゴッホ展 いよいよ京都へ


新年明けましておめでとうございます。
いつもブログ≪美術趣味≫をご覧いただき、まことにありがとうございます。
今冬はひときわ厳しい寒さが続いております。皆さまも健康には十分お気をつけ下さい。

さて上野の東京都美術館ではさる8日まで「ゴッホ展 巡り行く日本の夢」東京展が開催されました。わたくしは昨年末に鑑賞しましたので、ご参考までにレポートいたします。

展覧会のテーマはゴッホと「日本」の深い関わりを、ファン・ゴッホ美術館との国際共同プロジェクトのもと、新しい切り口で解き明かすという興味深いものでした。近年の研究成果も含め、ゴッホの創作の原動力となった日本への憧れと南仏アルルでの夢と挫折、ゴッホ死後の賞賛と理想化、後世への多大なる影響を丁寧に辿って行きます。

19世紀後半、東洋のエキゾチシズムに関心が高まりフランスにおいてジャポニスムが興隆した時代、ゴッホもまた日本の浮世絵に強く魅かれ、浮世絵の収集に走ります。自らも浮世絵版画を模写した油彩画を描き、「日本」にオマージュを捧げました(ゴッホ《花魁(渓斎英泉による)》)。日本では画家同士が師弟関係を結び、流派を築き芸道に切磋琢磨する様を知り、日本を理想の国と夢見ます。南仏の地アルルに日本のイメージをダブらせ、日本人のように画家同士で共同生活を営むことが、新しい芸術を生み出すと考えました。

理想と現実とのギャップからゴーギャンとのアルルでの共同生活は無残にも破綻し、ゴッホは精神的に深いダメージを負いましたが、却ってゴッホの芸術は一段と凄みを増し、他に類を見ないほどの前人未踏の境地に達したことはご存知の通りです。

ゴッホの死後、文物でその存在を知った日本の画家や文化人たちが、ゴッホゆかりの地を訪ね追悼を捧げるさまを関連資料で紹介し、展覧会は幕を閉じます。

このようにゴッホと「日本」をテーマに構成された展覧会は、充実した関連作品の展示もあって実に見応え十分の内容でありました。

年末の館内は待ち時間はなかったものの沢山の人で溢れかえっておりました。

注目のゴッホ展は北海道から東京を巡り、いよいよ1月20日からはファイナルの京都展を迎えます。関西のゴッホ・ファンの皆さま、どうぞお楽しみに。


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【京都展 展覧会情報】
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢
会場 京都国立近代美術館
会期 1月20日(土)-3月4日(日) ※月曜休館(2月12日振休は開館)
時間 9:30~17:00 (金曜・土曜および11月2日は午後8時まで)



尚、お客さまからは弊社のゴッホ複製画のタイトルについてお問い合わせをいただくことが多くなっております。今回のゴッホ展にて本邦初公開された《夾竹桃と本のある静物》はこの展覧会において命名されたものですが、所蔵館のメトロポリタン美術館の目録では≪Oleanders≫(=夾竹桃)と記されており、フランスのレゾネでも≪Les lauriers roses≫として登録されております。弊社では当該作品の複製にあたり外国の表記に倣い《夾竹桃‐ローリエ・ローズ‐》と名付け、ゴッホの絵画制作史上における重要な結節点とも呼ぶべき本作を共同印刷の独自技法である彩美版®にて制作いたしました。



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©The Metropolitan Museum of Art.Image source:Art Resource,NY/PPS通信社




彩美版®
ゴッホ 《夾竹桃 ‐ローリエ・ローズ‐》

販売価格 115,000円+税
限定200部発行


■仕様体裁
監 修 千足 伸行 (美術史家/成城大学名誉教授/広島県立美術館館長)
技 法 彩美版®、シルクスクリーン手摺り
用 紙 キャンバス
額 縁 木製金箔額(国産ハンドメイド)、アクリル付き
画 寸 天地42.7×左右53.0㎝(10号)
額 寸 天地55.7×左右66.0×厚さ3.0㎝
重 量 約3.5㎏
発 行 共同印刷株式会社

※「彩美版®」は共同印刷株式会社の登録商標です。


あの有名な《ひまわり》と並ぶアルル時代の静物画の傑作を、ぜひ貴方様のお手元でご鑑賞下さい。

最後に本年も美術趣味をどうぞよろしくお願いいたします。

プロフィール

共同印刷株式会社SP&ソリューションセンター アート&カルチャー部では、日本画を中心とした複製画や版画の制作、販売をてがけています。制作の裏側や、美術に関係したエッセーを続々とアップしていきます。尚、このサイトの著作権は共同印刷株式会社又は依頼した執筆者に帰属します。

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