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November 25, 2016

未来を見つける祭典


 それは去る9月下旬の雨の日、買い物から戻った妻が、「そこの公園にシートで覆われた荷物の端からすっごく大きな靴が覗いていたよ。」と物珍し気に話していました。想像すると極めて奇妙な光景ですが、ああ、とピンときました。「さいたまトリエンナーレ2016」は開催前に妻の発見から幕を開けました。
 9月24日から12月11まで79日間続くアートイベントで、さいたま市が初めて取り組む国際芸術祭。現在既に終盤に入ろうとしています。ディレクター・芹沢高志氏の掲げた「未来の発見!」をテーマに市内各所で多様な文化関連プロジェクトが展開されてきました。アートプロジェクトでは、国内外で活躍するアーティスト34組が参加。内容は多岐にわたり私もすべてを体験出来ていませんが、大きくは3地域に分けられた各所の展示をぶらぶら鑑賞した一部を紹介します。



 冒頭の作品は、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺地域にある西南さくら公園に置かれた「さいたまビジネスマン」。ラトビアの作家、アイガルス・ビクシェ氏による強化ポリウレタン製の10m近い彫刻作品です。仏陀の涅槃の像を想わせるかのように芝生に横たわり、体中に虫が這っても動じないサラリーマンの姿は悲しいような滑稽なような・・・しかし心を和ませます。

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アイガルス・ビクシェ 《さいたまビジネスマン》


 すぐ近くにある会場「旧部長公舎」は70年代に建てられたレトロモダンな邸宅。4軒それぞれでアーティストがインスタレーションを公開しています。写真家・野口里佳氏は、故郷さいたまを独自の視点で取材した映像作品の投影と展示。高田安規子+政子姉妹は縄文期にベイエリアだったこの場所の海の痕跡や絶滅危惧種の生き物の切り絵装飾で家を再生。松田正隆+遠藤幹夫+三上亮の俳優不在の演劇インスタレーションは、実際にかつて2006年まで何組もの家族が営んだ生活の記憶を、今もその時代に生活しているような室内で、物音・声などで重層的に再現。過ぎ去った日常への郷愁と共に、姿の見えない人の生々しい気配に恐怖心を覚えたのは私だけでしょうか。
 真っ白な空間に変えた邸宅内で展開される鈴木桃子氏の鉛筆ドローイングパフォーマンスは、開催前から作者が室内に緻密に描き続けてきた壮大な生命の増殖(火の鳥)が、ある時点から観客によって消されて何もない空間に帰るというプロセスをたどります。

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鈴木桃子 《アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト》


 この地域でもう1つ外せないのは、日比野克彦氏の「種は船プロジェクトin さいたま」。日本各地を巡り人をつないできた朝顔の種の形をした船・TANeFUNeは前年にプレイベントで埼玉の川を航行。このトリエンナーレでは、金沢と横浜からやってきた「種は船」作品の2艘が、別所沼公園のワークショップに参加した人たちの手で埼玉バージョンとして塗り替えられ、公園の池に美しく浮かべられています。海のないさいたま市で「水のさいたま」の記憶を積み込んで、さて次はどこへ向かうのでしょうか。

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日比野克彦 《種は船プロジェクトinさいたま》


 与野本町駅~大宮駅周辺、岩槻駅周辺も、開催される場である建物の特色(歴史・背景)と絡めたコンセプチュアルな展示内容は深く印象的。岩槻の旧埼玉県立民俗文化センターは集中してたくさんのインスタレーション作品に出会える場で、個人的に興味深かったのは「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」という川埜龍三氏の作品です。現在われわれが住んでいる世界を「さいたまA」とし、架空に存在する並行世界「さいたまB」で発見された奇妙な埴輪群とその発掘現場の様子を展示する「歴史改変SF美術作品」。中心にあるのは、犀の形をした巨大な犀型埴輪です。思わず笑顔を誘う作品で、本当にこんな世界がすぐ隣にあったら・・・という夢とロマンへの少年的憧れを刺激します。

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川埜龍三 《犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう》


 このトリエンナーレを象徴する「息をする花」の作者、韓国のチェ・ジョンファ氏作「サイタマンダラ」は、市民が消費を通じて自動的に制作に参加してしまう作品で、芸術は物事の捉え方次第で成立することを再認識しました。ご紹介した以外でも、各作家はさいたまという地の特色を研究し、作品イメージを紡ぎだし創出しています。もちろん理解しやすい作品・しにくい作品はあるものの、各々の「未来の発見!」の解釈が垣間見えてきます。おそらく身近で体験したこのイベントに触発され、表現活動を始める未来のアーティストもいるのではと思います。3年後はどんなテーマでどんな表現が見られるか、楽しみにしています。





■さいたまトリエンナーレ2016
会期:2016年9月24日(土)~12月11日(日)[79日間]
鑑賞無料(一部の公演、上映を除く)
定休日:水曜日
主な開催エリア:与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺
開場時間:10:00~18:00(最終入場17:30)
主催:さいたまトリエンナーレ実行委員会
ディレクター:芹沢高志(P3 art and environment 統括ディレクター)
URL:https://saitamatriennale.jp/


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