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June 5, 2015

奇想の美術館でバネット・ニューマンを見る


 いつもブログ「美術趣味」をご覧いただき、まことにありがとうございます。6月に入り、夏真っ盛りの陽気となりましたが、西の方からは徐々に梅雨の足音も近付いてきました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

20150605mihomuseum_entrance.JPG さて私は先日、予てより念願のMIHO MUSEUM(ミホミュージアム)で「バネット・ニューマン-十字架の道行き-」展を鑑賞してまいりました。MIHO MUSEUMは滋賀県琵琶湖の南、湖南アルプスの山中に位置する雄大なスケールと景観を誇る美術館です。私はその立地から知る人ぞ知るの秘境美術館をイメージして行ったのですが、JR石山駅からバスで50分の辺鄙な山地にありながらも、来場者は数多く、あまつさえ外国人観光客の観光コースとなっていることに(!)驚きを感じました。

20150605mihomuseum_entrance2.jpg 美術館の広大な敷地は、入口のレセプション棟からトンネルを抜け、半地下の南北に広がる美術館にまで続きます。美術館の設計はルーヴル・ピラミッドで有名なI.M.ペイ。シャープで幾何学的なデザインの作風から「幾何学の魔術師」の異名を持つアメリカを代表する建築家です。写真の幾何学模様のガラス屋根に建築家ペイの個性が表れております。
 美術館を訪れて改めて分かったことは、優れた景観や展示内容はもちろん、特にホスピタリティに優れた美術館であるということでした。休憩時利用のレストランやティールームの応対とメニューは卓越しており、私が買い求めたパンや菓子でも、農薬や化学肥料を一切使わない天然素材の食材とのこと。一口噛めば粉の違いがはっきりと分かる、滋味あふれる、本物の味わいの美味しさでした。

20150605mihomuseum3.JPG 興奮のあまり?話しが些か脱線いたしましたが、今回の鑑賞の目的はバネット・ニューマン(1905‐70)です。ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコらとともにアメリカ抽象表現主義を牽引したニューマンは、《アンナの光》という代表作が近年まで日本の美術館に所蔵されていたこともあり、日本の現代美術愛好家に親しまれております。ニューマンの作風は線と色彩の配列のみで、崇高なイメージを創造するというもの。一見シンプルな構図の作品の表層からも、困難なテーマに挑み続けた作家の生涯が決して平坦なものではなかったことがうかがわれます。私が考えるニューマン作品の鑑賞の要件は、独り絵の前に佇み、作品を見詰め、問い掛け、その作品と共振すること。それだけ。そうすることではじめて作家の精神・作品の核心に近づくことが出来るものと信じております。

20150605mihomuseum4.JPG 今回来日の作品は、ワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する全14点の連作《十字架の道行き》。「十字架の道行き」とは、本来キリストの受難を図像化した宗教画の伝統的な主題のひとつですが、ニューマンは独自の作風で8年の歳月を掛けて連作を描き続けました。作品は時代・国籍・人種・宗教を超越し、優れた芸術のみが持ちうる崇高な精神性や、至上の聖性を顕現するに至りました。「レマ・サバクタニ(神よ、なぜ私をお見捨てになったのですか)」の副題に隠された、作品に秘められた根源的な問い掛けからも、本連作が20世紀抽象絵画の到達点と呼ばれるに相応しい、マスターピースであるということが言えましょう。

 同時開催の『曽我蕭白「富士三保図屏風」と日本美術の愉悦』では表題の《富士三保図》がとにかく圧巻です。代表作《群仙図屏風》と趣向は違いますが、六曲一双の屏風に描かれたダイナミックなスケールの富士の眺望は、奇想の画家と謳われる曽我蕭白の壮大なイマジネーションを充分に堪能させるものでありました。

 今回は限られた時間でしたので、ミュージアム・コレクションの日本美術や世界各地の古代美術品をじっくり鑑賞する余裕はなかったのですが、美術館収蔵の名品の数々はどれも美術館の静謐な空間と調和して、泰然とした輝きを放っておりました。

 ご紹介の「バネット・ニューマン」展の会期も今月7日(日)までと残すところあと僅かですが、展示替え休館をはさみ、7月4日(土)からはこれまた注目の「生誕300年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展が東京のサントリー美術館よりムーブオーバーいたします。夏の暑い盛り、雄大な山々の健やかな自然に囲まれた美術館に、皆さまもぜひ足をお運び下さい。



【展覧会情報】

「バネット・ニューマン-十字架の道行き-/曽我蕭白「富士三保図屏風」と日本美術の愉悦」展

会  場 MIHO MUSEUM(ミホミュージアム)
     滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300
会  期 6月7日(日)まで、8日より展示替え休館。
     ※7月4日(土)より「若冲と蕪村」展開催-会期8月30日(日)まで
休  館 月曜(祝日を除く)
開館時間 10:00~17:00


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