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July 29, 2016

「『尋常小学算術』と多田北烏」を読んで


 いつも美術趣味をご覧頂きありがとうございます。

 手前みそですが、印刷愛がわいた本をご紹介いたします。

 今回、タイトルにあります本「『尋常小学算術』と多田北烏-学びはじめの算数教科書のデザイン-(発行:風間書房2014年2月)」にて、昭和の美しい教科書と多田北烏ついて知り、印刷というひとつの表現技法にとても愛着がわいてしまいました!

 多田北烏(ただ ほくう)は、資料が少ないゆえにあまり情報を知られていない存在ではありますが、美術出版の先駆者として昭和に活躍した美術家でした。
 北烏がデザイナーでありアートディレクターを務めた教科書、「尋常小学算術」は、1935年から1940年(昭和10年から昭和15年)にかけて使われた
低学年向けの初めての児童用教科書で国語に続いて初めてカラー印刷されたものだそうです。

 とにかくこちらの美しい画像をご覧ください。

20160729-1.jpg


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20160729-4.jpg
(画像4点 巻頭のカラー資料より転載)


 画像にある通り、とても教科書とは思えないほど情緒的なのです。

 なぜこのように美しいのか。

 弟子の風間四郎の言葉によると(当時の共同印刷の製版者)
 「印刷で効果が上がる原画、印刷しやすい原画」を目指したからだということです。

「挿絵画家として著名になっても、なおタブロー画家として認められようと、苦悶した画家も多かった。北烏が個人所有となるタブローよりも、庶民の生活を彩る美術、労働者との共同意識を重視したのは、当時としては特異な態度であったが、その原点となる背景は後述することにする。」(p.92より抜粋)

 とあるように、北烏は、単なる原画作家ではなく、印刷方法の原理を理解し、方法を指示したり、画家と印刷技術者との共同の芸術としてとらえていたという事でした。
 印刷で表現しきれないものは初めから描かなかった、ということです。
 まるで浮世絵版画の絵師のようです。
 戦前、デザイナーにとって印刷はまさしく表現だったことがうかがえる内容でした。

 また北烏の芸術観は現代美術の範囲に及んでいます。
 「元来私は従来の絵の具のみが絵画の永久な表現形式では決してない、将来吾々の感度がいよいよ高まり益々複雑になって来ると、更に更に変った形式が発明され、要求されて来ると思いますが、そうした場合の一形式として、此の物で描くという方法が盛んになるかと思うのです。
 例えば音で描く、光で描く、物で描く、これはまだ少し漠然としていますが空間に描く、或いは言葉で描く、或いはこれ等のものを綜合して描く、というようなものです。」(p.94より抜粋)

 この時代、北烏が語っている芸術論にも感銘を受けました!



<出典>

『尋常小学算術』と多田北烏
-学びはじめの算数教科書のデザイン-

著者: 上垣渉、阿部紀子 著
発行: 風間書房(2014/02/20)
定価: 本体7,000円+税
ISBN: 978-4-7599-2020-8


※本稿中の引用・転載につきましては、著者様と発行元様の御許可をいただいております。
謝して御礼申し上げます。


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共同印刷株式会社SP&ソリューションセンター アート&カルチャー部では、日本画を中心とした複製画や版画の制作、販売をてがけています。制作の裏側や、美術に関係したエッセーを続々とアップしていきます。尚、このサイトの著作権は共同印刷株式会社又は依頼した執筆者に帰属します。

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