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May 15, 2015

北陸で巡る2つの個性的な美術館、 及び食と温泉も堪能した事。


 北陸新幹線が今年の3月に開業して富山、金沢が時間的に近くなった。高かったハードルがぐっと下がったのを機に、気になっていた2つの美術館を訪れる事にした。石川県金沢市にある「金沢21世紀美術館」と、富山県下新川郡入善町にある「下山(にざやま)芸術の森 発電所美術館」である。

 東京駅からAM7:20発の北陸新幹線「かがやき」に乗ると、約2時間半後のAM9:54には金沢駅に着いた。この列車は途中の長野駅を出ると、停車するのは富山駅と金沢駅だけである。糸魚川を過ぎて富山県に入って行くと左手の車窓からは立山連峰が白く残雪をかぶって見えて来るので、修学旅行の学生のように心が浮き立って来る。まずは前田利家が治めた加賀百万石の城下町を金沢駅から南東方向へ続く広い道を歩き始める。

 大きな交差点にぶつかり道を渡ると活気のある「近江町市場」に出る。人気スポットとなったこの市場の店々の間を通ると、岩牡蠣、紅ずわい蟹などの海の幸、竹の子などの山の幸が所狭しと並んでいる。店先で食材を調理して提供している店もある。美味しそうな匂いに後ろ髪を引かれつつも先を急ぐ。金沢城址を整備して作られた広くてきれいな「金沢城公園」の中を通り抜けて「兼六園」の案内所前に出る。泣く子も黙る超メジャースポットの「兼六園」には寄らず「金沢城公園」と「兼六園」に挟まれた道を更に進むとそこに「金沢21世紀美術館」があった。

 「金沢21世紀美術館」はヴェネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞ほか数多くの賞を受賞している今話題の妹島和世と西沢立衛のユニット=SANAAが設計した建物である。上空からこの建物を見ると円盤の中に四角や丸の箱が詰め込まれたような独特の構造になっている。展示会場に入る前にまずは腹ごしらえをすることにする。ここにはおしゃれなレストランがあるのだが、お昼時に混雑する事は必至なので早めに昼食を済ませる(近江町市場での我慢はこのためである)。この美術館のレストランは白を基調としたモダンな空間で、建物の曲線に沿った大きな窓から外光が入って来るのでとても明るく、緑の多い外の景色も楽しめる。ゆったりとした席でブリオシュのポタージュグラタンセットとうオシャレなランチをいただいた。前の席では一人お婆さんが、心なし所在なげにジュースを飲んでいた。

20150515pool.jpg 食事が済んだので、まずは入場料を支払って、これを見るために来たという作品に向かう。
 レアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》。美術館のほぼ中央の中庭にある約縦3m×横4mのこの小さなプールの底は空気のある部屋になっており、観客は地下の通路を通ってそこから水面を見上げることが出来る。プールサイドから作品を鑑賞する者は、水の層を通して、下から見上げている観客を見る事になる。揺らめく水面を通して見るその世界は原理的には単純であるにも関わらす、光や色彩、そして作品の中に取り込まれる観客の動きという要素が複雑に絡み合い、いつまで見ていても飽きることがない。プールの底に差し込む光の波紋も奇跡の様に美しい。

 また美術館をぐるりと囲む庭に設置されているオラファー・エリアソンの《カラー・アクティヴィティ・ハウス》は、3色のガラスの曲面を渦巻き状の家の様にした作品である。観客は作品の中に入り込む事で作品の一部になり、それを外から見ている別の観客が鑑賞する(中の観客も外の観客を鑑賞する)。これらの作品に共通しているのは、鑑賞者が作品に干渉する事で相互作用が起こり、作品が常に流動的な変化をして行く。絵画を一方的に鑑賞する展覧会とは違った双方向の鑑賞スタイルである。

 今ご紹介した作品の他にも恒久展示作品と呼ばれているアートが幾つかある。天井が四角くくり貫かれて、そこから見える空(ペタリと空の写真がはってあるようにも見える)を鑑賞するジェームズ・タレルの《ブルー・プラネット・スカイ》。非常に個人的な作品鑑賞の展示形態をしているピピロッティ・リストの《あなたは自分を再生する》。この作品は個室トイレの中にあり(よって基本的には一人しか鑑賞できない)、洋式便器の前にある円盤状のクリスタルに映し出される映像(血液、汗、排泄物など)を奇妙な音楽と共に鑑賞するというまさに神秘体験。恒久展示作品はいずれも、「どう見えるか、どう理解するか」を見る人に問いかけて来るが、それは頭でっかちなコンセプトアートではなく、目で感じて、心が楽しめるアートである。

 この美術館には入場料のいらない交流ゾーンと呼ばれているスペースがあり、建物の中をドーナツ状に包んでいる。市民が公園感覚で訪れては立ち去って行く、人々に開かれた参加交流型の美術館である。また、託児室やキッズスタジオ(子どもが主体となって作品を制作する空間)などもあり、誰もが訪れ易く出来ており、新しい美術館の可能性を提案している。(※恒久展示作品の一部は無料の交流ゾーンから見ることも出来る。また企画展の内容などにより恒久作品の見られるものが変わってくるので、望みの作品が見られるか事前に確認して訪れた方が間違いない。)

 さて美術館に大変満足したので、今度は街と歴史を堪能したいと思う。金沢城公園から北の方向に百万石通りを進み、浅野川を渡ると国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「ひがし茶屋街」に出る。昔ながらの古い家々には「木虫籠(きむすこ)」と呼ばれている出格子がついており、タイムスリップでもしたように街並を散策出来る。また、川を渡り返して河口方向に入った所には、同じく重要伝統的建造物群保存地区の「主計町茶屋街(かずえまちちゃやがい)」がある。こちらも川沿いに昔ながらの茶屋が並ぶ風情ある通りである。明治の中頃には多いににぎわったとされ、隣町に住んでいた泉鏡花の作品にもこの辺一帯の事が書かれているそうである。そう聞くと、古い街並の路地の奥にはなにやら妖気めいた気配を感じる。

 歴史ある城下町を散策していたら、宵闇が迫り涼しい風が吹いて来る。続いてはやはり食を堪能しない訳にはいかない。新鮮な海の幸を食べさせてくれるお店を教えてもらい入る。この店はオーダーしたものを自分の前にあるコンロで焼いて食すスタイルらしい。メニューを見ると「ガス海老」、「ゲンゲ干物」、「金時草(きんじそう)のおひたし」といったあまり聞き慣れない品がある。「ガス海老、ゲンゲとはどのようなものか?」と店の主人に聞くと、「ガス海老はガス海老だ、ゲンゲは不細工な深海魚だ。」との返事。ともかく北陸ならではのもののようなのでを食してみようと、岩牡蠣とそれら3つを注文する。

 ゲンゲは正しく不細工な魚で、これが干物にしてあるからミステリードキュメントに出てくるような小さい人魚のミイラみたいである。味はししゃもに近い感じか...。ガス海老は甘みがあり、かりっと塩焼きにして殻まで食べた。ガス海老は鮮度が落ちるのが早いために東京近辺にはあまり出回っていないようである。金時草は加賀野菜と呼ばれているものの一つで、見た目のぬめりっぽさから想像できないシャキシャキとした歯ごたえがあった。地元の美味しいものと石川県加賀市にある橋本酒造の十代目という酒をちびりちびりとやりながら、金沢の夜は更けて行った。

 次の日は富山湾を見ながら第2の美術館「下山(にざやま)芸術の森 発電所美術館」を目指した。まずは能登半島の付け根の辺りにある高岡へ行き、そこから富山湾内の西側の氷見へ移動する。高岡では「高岡御車山祭(たかおかみくるまやままつり)」という祭りの日の昼前に着いたので、街の通りで祭りの準備が進められていた。

 豊臣秀吉が時の天皇を聚楽第に迎える際に使用した御所車にルーツを発するという歴史のある祭りである。私が偶然見た山車も黒塗りに螺鈿細工がきらびやかに光る格式のあるものであった。石川、能登は江戸時代より美術工芸を奨励した事もあり、その技術がふんだんに生かされているのであろう。さらに氷見では名物「氷見うどん」と「ホタルイカの沖漬け」をいただいた。氷見うどんは普通のうどんと、にゅうめんとの中間ぐらいの細いうどんである。これがあっさりとした薄味の汁に入っているので、するすると喉を通って行く。また「ホタルイカの沖漬け」は、イカの旨味がギュッと詰まった濃厚な味で、小さな一匹でご飯がぐいぐい食べられる美味しさであった。

 腹を満たして富山湾を東の方へぐいぐい移動する。富山市の海岸線にある「古志の松原」付近からは、立山連峰が望めて大変風光明媚である。さらに東に移動して滑川を過ぎると湾は北に曲がり始める。その先の魚津の辺りの海岸線は蜃気楼が見える事でも有名である。残念ながら私は見る事が叶わなかったが、確かに沖の方では海と空が一つに解け合ってねっとりとしている様は、現実的ではないような現象が起きるのに相応しい場所である。

20150515NizayamaForestArtMuseum.jpg さらに東に向かい、黒部川を越えて入善に入ると、そこは黒部川が作り出した広大な扇状地が広がっている田園地帯になる。この田園の中に目指す第2の場所、「下山(にざやま)芸術の森 発電所美術館」がある。取り壊される予定だった水力発電所を美術館として再生したという珍しい施設である。施設は展示会場の発電所美術館、レストラン棟、展望塔、アトリエなどいくつかの建物が分散してある。大正時代のレンガ造りの趣を残す発電所美術館は河岸段丘の下側にあり、上から引かれた巨大な導水管が2本、館内に口を開けて残っている。その他にも巨大なタービンをはじめ発電設備が残されており、そちらを見学するだけでも楽しい。水力発電所と美術館の両方が好きな私には一粒で二度美味しい美術館である。

 展示スペースは広く天井の高さも約10mあるので、立体作品の企画展が多いそうであるが、今回は開館20周年記念展という事で過去の企画展開催作家26名の作品が平面、立体交えながら展示されていた。駅から遠いせいか、人が少なくて美術館の建物自体と作品を心行くまで鑑賞できたのも嬉しい。美術館を出て河岸段丘に取り付けられた急峻な階段を上るとレストラン棟、展望塔等がある。大変残念なことにレストラン(お茶だけの様)はまだ開店していなかったが、そこからは扇状地を一望できそうな眺めの良いテラスもあった。気を取り直して展望塔に登る。頂からは目の前に残雪の立山連峰が望める。立山連峰を背景に田園の中に佇むレンガ造りの建物はとても美しかった。

 さて旅の終わりに、近くの日帰り温泉で疲れを流して行く事にする。浴場の大きな窓からは、初夏の日差しが燦々と入って来る。お湯は滑らかで透明感があり、肌にしっくりとなじむ。飲料用の温泉を口に含むと鉄分とナトリウムの味がした。風呂上がりに休憩した食堂からは立山連峰の山々がくっきりと見える。帰りの駅に行く途中、日本三奇橋といわれた愛本橋を渡ってみる。橋の上から上流を見ると山々の雪解け水が豪快に流れて来る。下流を望むと扇状地の田んぼに水の恵みをもたらし、富山湾に注いで行く広々した川の流れがある。新幹線に乗る黒部川宇奈月温泉駅に着き、立山連峰を望む青空のもと、ご当地キャラのジャンボ~ル三世(入善は巨大なスイカが特産)が印刷されたスイカ最中を食しながら東京行きの新幹線の到着を暫し待った。

 東京に帰ってすぐ、本屋で宮本輝が今年4月に出版したばかりの「田園発 港行き自転車」(集英社)という本に出会った。この本に出て来る場所が富山県、入善、愛本橋というように、今回の旅と妙な共通点があった。この本を読んでいただければ、私の駄文で伝わらない、富山湾から入善にかけての雰囲気を感じていただけると思う。



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