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April 10, 2015

江戸の花見と上野の桜


20150410kaneiji.JPG 昔から桜の名所として知られる上野恩賜公園とその周辺は、明治維新を迎えるまでは全域が東叡山寛永寺の境内でした。公園の平面プランは寛永寺であった当時とあまり大きく変わっていません。京成上野駅のある側に正面口(総門)となる黒門があり、噴水広場のあたりには寺の中心となる根本中堂がありました。さらに奥となる東京国立博物館がある場所には本坊があり、上野動物園や東京都美術館、東京芸術大学、西洋美術館、科学博物館などがある公園周辺には多くの子院が立ち並んでいました。戊辰の役の戦火でほとんどの堂宇が焼け落ちましたが、清水観音堂(重要文化財、1631年建立)は奇跡的に当時のまま残されています。

20150410kiyomizudou.JPG 寛永寺は江戸城の鬼門を守護するために、天海(1536?~1643)が二代将軍徳川秀忠よりこの地を与えられ寛永二年(1625)に本坊を建立したのが始まりです。天海は奈良・吉野の桜をこよなく愛し、わざわざ吉野山から桜を取り寄せて植樹したと伝えられています。

その後、儒学者・林羅山(1583~1657)が三代家光より上野忍岡の一画を与えられ、私塾や文庫、孔子廟を建てました。羅山は孔子廟の垣根に沢山の桜樹を植えるとともに私塾を「桜峰塾」と名づけました。「桜ヶ峰」と呼ばれたその場所は、今「西郷隆盛像」があるあたりで、江戸時代には山内でもひときわ桜樹が多い場所として知られました。

 こうして上野の山一帯は江戸第一の桜の名勝と言われるようになり、多くの花見客で賑わいました。江戸後期の天保年間に刊行された「江戸名所図会」にはその有様が以下の通り記されています。今から180年ほど前の上野の花見の様子ですが、現在と全く変わるところがありませんね。

『抑(そもそも)当山ハ江戸第一の桜花の名勝にして、一山花にあらずと云所なし。いにしへ、台命によりて和州吉野山の地勢を模し植させらるゝか。故に花に速あり遅ありて、山上山下盛をわかてり。弥生の花盛には、都鄙の老若貴となく賤となく、日毎に袖を連てここに群遊し、花のために尺寸の地を争ふて、帷幕を張筵席を設く。詩歌管弦ハ鶯声に和し、錦衣繡裳ハ花影に映し、愛玩賞咏日の暮を志らず。』(「江戸名所図会」巻5 東叡山寛永寺)



 上野の山にも数多く植えられている「ソメイヨシノ(染井吉野)」は、江戸時代にエドヒガン系のサクラとオオシマザクラを掛けあわせて作出されたと言われ、当時は古来有名な吉野山の桜にあやかり「吉野桜」と呼ばれたそうです。人工交配で生れたソメイヨシノは種子では増えず接木で増やすため、すべての個体が同じ遺伝子を持つクローンです。それまで主流だった野生種のヤマザクラと比べて、花が華やで成長も早いことから人気となり全国に広まりました。今では、わたしたちが眼にする桜のほとんどがソメイヨシノであることは皆様もよくご存知のこととと存じます。

20150410_komatsunomiya.JPG 先月の半ば、ソメイヨシノの原木が発見されたとの報道がありましたが、皆様お気づきでしたでしょうか。千葉大学で植物分子遺伝学を研究されている中村郁郎教授のグループが上野恩賜公園の「小松宮親王像」周辺の桜を調査し、ソメイヨシノの原木の可能性が高い木を発見し、三月下旬に玉川大学で開催された日本育種学会春季大会で発表しました。詳細は「上野公園の'ソメイヨシノ'原木候補について」というタイトルで学会ホームページに掲載されておりますので、ご興味を持たれた方はそちらをご覧ください。

20150410syokubutsuen.jpg さてソメイヨシノを作出した植木屋とはどんな人物だったでしょうか。元筑波大学教授・岩崎文雄先生の研究によれば、江戸・駒込染井村(現在の豊島区駒込七丁目付近)に住んだ、伊藤伊兵衛政武(1667~1757)であると考えられるそうです。伊兵衛は八代将軍吉宗(1684~1751)に重用され、将軍家の植木職を務めました。現在小石川植物園の入口近くにあるソメイヨシノの古木は、伊兵衛が植えたものと推定されるそうです。小石川植物園は江戸幕府が設置した小石川薬種園の跡で当社のお向かいにあります。

20150410somei.JPG 吉宗は質素倹約を旨とする享保の改革を押し進めるとともに、飛鳥山や向島の隅田川に桜を植樹し庶民に憩いの場を提供しました。都内にある古くからの桜の名所は、歴代将軍の整備によるところが少なくありませんが、ことに吉宗の果たした役割は大きかったと言えるでしょう。

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